バリ島は、観光産業で成り立つ一方、ゴミ問題や水不足問題などの環境・社会課題にも直面している地域です。その中で、サステナブル・ツーリズムの先にある「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」を実践するエシカルホテルや地域団体などが活動しており、旅を通じて環境や社会を積極的に再生していく取り組みを視察することができます。
視察先・ガイド
視察先1. エシカルホテル Potato head の取り組み
廃棄物をデザイン・オブジェに生まれ変わらせるラボを擁するホテル、ポテトヘッド。ホテル内で発生したごみを原則的に再利用するという循環型のホテルです。
ここではごみは分別をせずに回収し後から、「ORGANIK KOMPOS(有機ごみ)」と「MAKANAN TERNAK(肥料ごみ)」「NON-ORGANIK(燃えないごみ)」に仕分けられます。
ゴム手袋やタバコやマスク等どうしても再利用できないものは産廃所に運ばれるが、それ以外はすべて再利用しています。再利用の仕方は非常に多種多様で、パイナップルひとつをとってでも、房はORGANIK KOMPOSとして植物用の肥料に、果肉はMAKANAN TERNAKとして豚の餌に再利用されています。
NON-ORGANIKの中でもプラスチックの再利用にこだわりが感じられた。おもにペットボトルの蓋が再利用の対象になります。蓋に貼られたシールやステッカーを剥がしてから洗浄し、粉砕して細かくします。
これをプレシャスプラスチックのシートプレスという機械で溶かすと、プラスチックの板に生まれ変わります。この板をCNCという裁断機でカットすることで、様々な製品へとアップサイクルしています。
案内や部屋番の文字、客室の家具等、ホテル内で再利用される他、販売もされています。 ただ製品を作るだけでなく、作成途中で発生した粉砕片も再度集めてから材料にする「セカンドリサイクル」が徹底されており、環境配慮への姿勢が伺えました。
この環境配慮はホテル全体にも行き届いています。再利用を象徴させるパブリックアートの作品群がホテルの各所に配置されています。
5000足のサンダル(海洋ごみ)で作られたハートのオブジェや総重量888kgのプラスチックの蓋で作られたオブジェ、竹でできたトンネルなど、物を無駄にしないという姿勢がうかがえます。
もともとこのポテトヘッドにはナイトクラブしかなかったのだが、そのナイトクラブの壁面が7000個のジュンデラ(窓の廃棄)で作られていたことに目をつけて、環境配慮に特化したリゾートホテルとして、コロナ禍にオープンしたとのことです。
ハードからスタッフまで環境のことを考えているという点が、このホテルのホスピリタリティ性を高めており、環境配慮に関心のある高所得者を惹きつけていると感じました。
視察先2. The Museum of Space Available
20万本のペットボトルキャップをリサイクルして作った、デザインスタジオスペースアバイバル。
スペースアバイバルは循環型デザインの施設としてプレシャスプラスチックでリサイクルしたものやバイオマスマテリアルなどのイノベーションが展示されています。
こちらもシートプレスでリサイクルされた壁面はプラスチックが混ざり合っているのでとても綺麗です。
マッシュルームを使ったバイオマスプラスチックも視察しました。
今後このセンターはメタバースやNFTも立ち上げる予定です。DXとGXを融合させた取り組み、これからの活動の参考になります。
視察先3. プレシャスプラスチックの最先端を走るWEDOO
WEDOOは10名ほどの技術者で構成されるプレシャスプラスチック製品製造会社です。ディレクターのバレリン氏が製品アイデア出しを主にしており、アート作品やギターのボディの製作などでプレシャスプラスチックの市場を広げています。
ここでもシートプレスの機械とCNC裁断機が使われていますが、WEDOOはこの機械自体も製造している点とCNC裁断機がプラスチックだけでなく金属まで裁断できる点で非常にユニークです。
バリ島から世界へとプラスチックリサイクルの可能性を広げ、循環型経済に尽力している素晴らしい企業です。 彼らのワークスペースには驚くべき作品が溢れていました。
プレシャスプラスチックのマシーンで生まれ変わったアートや家具、ギターなど、廃棄物から芸術へと変貌した姿に感動しました。
機械の製造については、近隣諸国ではジャワ島の会社とWEDOOの2社のみしかなく、ほぼ寡占の状態です。
また金属加工も行えるためプラスチック製品の型も自社で内製化して、これが製品の自由度や大量生産に繋がっています。WEDOOでもセカンドリサイクルが徹底されています。
視察先4. 自然に溶け込んだサステナブルホテル Munduk Moding Plantation
ムンドゥクは前述のバレリン氏から紹介してもらったプラスチックのアップサイクルを行っているホテルです。2022年12月からシートプレスの機械とCNC をWEDOO経緯で導入しましたが、そのきっかけとしてはそのホテルの立地上、環境に配慮したホテルづくりをもとから行っていたためです。
ムンドゥクは山奥に位置しているが自然をあまり切り開かずに、自然の中に溶け込むようにつくられたホテルです。水は深さ120m井戸と雨水の貯水用プール、ホテルから出た生活水を循環させることで賄っています。
水はフィルターで濾過しバクテリアを殺菌する薬を使うが、それ以外のケミカルなもので浄化は行わないようにしています。電力に関しては111枚のソーラーパネルでホテル全体の15%の電力を賄っています。
また提供する野菜の20%はホテル内の農園で育てており、自走を常に意識していました。 プラスチックの再利用については導入したてということもあり、独自な製品はあまり見られませんでした。
ただし、プラスチックをホテル周辺の村人が持ってくるとお金を渡したり、6歳未満の子どもであれば英語教育を提供したりするなど、ホテルの周りの環境意識の向上にも一役買っていました。
バリ島にはごみの分別という概念がなく、田舎道になればなるほど道中にごみが大小問わず捨てられているため、このホテルの取り組みは素晴らしいと感じるとともに、佐賀でも転用できると感じました。
ホテルのデザインは、バリ島の建築家ポポ・デーンズさんが手掛けました。
ホテルとコーヒー農園は、地元のバリ人のチームが運営しており、高品質のサービスと地域社会との連携を実践しています。約150人の従業員が働くこのホテルは、地元経済の支えとなっています。
サステナブルツーリズムは、経済的、環境的、社会的価値のバランスが必要です。雇用や繁栄を生み出すだけでなく、地元の文化や環境を尊重することも重要だということを、このホテルは示してくれています。
視察先5. アップサイクルで環境課題以外の解決を行うYayasan Kaki Kita Sukasada
ヤーサンカキキタではシートプレスの機械を使い義足を作り、提携する病院の患者に提供しています。バリ島は糖尿病患者が多いらしく、足を失う人もいます。
そうした人に義足を無償で提供し、生活できるようになればヤーサンカキキタで働いてもらうようにしています。患者支援と就労支援まで一気通貫で行っています。バリは国から民間への支援はほとんどないようでNPO・NGOという組織形態は存在しないようです。
そのため資金源はプレシャスプラスチックの売上とのことで、InstagramやECサイトでの国外販売で、活動を続けれられています。
こちらもセカンドリサイクルが徹底されており、プレシャスプラスチックの根幹にある物の大切さを垣間見ることができました。
サステナブルツアーガイド:グデアリ 現地バリ島
今回のバリ島視察では、現地のアリさん(バリ人)とさとみさん(日本人)に素晴らしいアテンドをしていただきました。アリさんの奥さんのエリカさん(日本人)は視察前から親切に連絡をくれて、アリが現地の視察先との調整をしてくれました。
アリは日本で働いた経験があるので、日本の文化にも詳しく、現地でのスケジュール管理もスムーズでした。彼らのおかげで、バリ島のサステナブルツーリズムについて深く学ぶことができました。視察先ではアリさんの友達がたくさんいて、いろいろな方と交流できました。
また、彼らは私にバリ島の魅力をたくさん見せてくれました。視察途中には、ローカルな場所にある絶品の料理を食べさせてくれたり、アリの実家の田んぼでアリの幼なじみとの飲み会など、現地ならではの体験もさせていただきました。
今回はサステナブルツーリズムの視察ということで、関係ないところは掲載していませんが、バリ島の生活そのものを知ることができた、とても充実した視察になりました。バリ島にビジネスや視察、観光で行く方は、エリカさんにご連絡することをおすすめします!彼らはバリ島で素晴らしい時間を提供してくれます!
連絡先
- バリ島在住 ダイビングインストラクター 仲倉 絵里香
- インスタグラム:@erika_bali_island
バリのサステナブルツーリズム総括
バリ島での視察の結果として、サステナブルツーリズムがもたらす効果と課題について分析しました。バリ島では、観光施設が地元の文化や環境を尊重しながら、観光客のニーズに応えるサービスを提供することで、新たな産業や雇用の創出を促進し、地域経済の活性化に寄与しています。
佐賀県は、豊かな自然や伝統文化を持つ魅力的な観光地ですが、若者の流出やインバウンドの不足など、観光産業の発展に向けて課題もあります。そこで、佐賀県は、海外からの観光客を増やすためには、DMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)を設立し、海外への情報発信やマーケティングを強化する必要があります。
また、地元メディアがサステナブルツーリズムの事例や成果を国内外に向けて発信することで、他県との連携や地元住民への啓発効果も期待できます。
今回の視察の目的はサステナブルツーリズムの概念と実践について、バリ島での視察を通して得た知見を佐賀県に活かす方法を探ることでした。
サステナブルツーリズムは、観光客の満足度を高めるだけでなく、地元の文化や環境を保護し、地域社会の福祉や経済発展にも貢献する持続可能な観光形態です。
佐賀県は、サステナブルツーリズムを推進することで、インバウンドの増加や雇用創出などの経済効果だけでなく、地元の文化や自然の価値の再発見や保全などの社会的・環境的効果も期待できます。
バリ島で学んだサステナブルツーリズムの理念や手法を参考にしながら、佐賀県独自の魅力を活かしたサステナブルツーリズムの実現に向けて、今後も取り組んでいきたいと考えています。
サステナブルツーリズム関連情報
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近年、企業の社会的責任(CSR)や社会貢献への関心の高まりとともに、「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に関する取り組み事例が増加し、企業とNPOの連携もより注目を集めるようになっています。
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