Karatsu Data Bank

IPBESネクサス評価で見る
再生可能エネルギーと自然

夕方の水辺と空
評価された対策71IPBESネクサス評価 図SPM.8
評価した要素5生物多様性・水・食料・健康・気候変動
唐津市沖の洋上風力準備区域資源エネルギー庁の一覧・2026年1月5日時点

再生可能エネルギーは、自然にどう影響するのか

IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)のネクサス評価は、71の対策が生物多様性・水・食料・健康・気候変動の5つの要素に与える影響を評価しました。洋上風力と陸上の太陽光は、気候変動にはプラス、生物多様性には小さなマイナスと評価されています。佐賀県唐津市沖は、2026年1月5日時点の国の一覧で、洋上風力の「準備区域」です。

このページは、NPO法人唐津Farm&Foodが、ネクサス評価の政策決定者向け要約(SPM)の図SPM.8から再生可能エネルギーにかかわる対策を抜き出し、洋上風力の研究のまとめ、日本の制度、唐津市沖の状況、太陽光の条例、グリーンインフラの国の目標を、公的資料と学術資料で並べたものです。評価の言葉は付けず、資料に書かれていることだけを記しています。出典はすべて下の出典台帳でたどれます。

IPBESネクサス評価とは

正式な名前は「生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価報告書」です。2024年12月、IPBESの第11回総会で政策決定者向け要約が承認されました。57か国の165名の専門家が、6,500を超える文献をもとにまとめています。

政策決定者向け要約の最終版は、2025年6月16日にZenodoで公開されました(DOI 10.5281/zenodo.13850289)。日本語版は、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が2026年2月に公開しています。このページの表と引用は、英語の最終版にもとづきます。

対策生物多様性水食料健康気候変動
C05 洋上風力マイナス・小マイナス・小マイナス・小マイナス・小プラス・小
C06 陸上の太陽光マイナス・小プラス・中影響なしプラス・中プラス・大
W03 ダムの運用影響なしプラス・小マイナス・小マイナス・小マイナス・大
F09 プラスチック汚染の削減判断材料不足(IC)プラス・小プラス・小プラス・小プラス・小
図SPM.8から4つの対策を抜き出したもの。各要素への影響を-3〜+3で評価し、プラス・マイナスと3段階の大きさ(小=0〜±1.5、中=±1.5〜±2.5、大=±2.5以上)で示しています。出典:IPBES (2024) 政策決定者向け要約 最終版、Figure SPM.8(最終版PDFの38ページ)

図SPM.8に見る4つの対策

洋上風力(C05)は、気候変動にプラス(小)、ほかの4つの要素にマイナス(小)です。陸上の太陽光(C06)は、気候変動にプラス(大)、水と健康にプラス(中)、生物多様性にマイナス(小)、食料には影響なしと評価されています。ダムの運用(W03)は、気候変動にマイナス(大)です。プラスチック汚染の削減(F09)は、水・食料・健康・気候変動にプラス(小)で、生物多様性は判断材料不足(IC)とされています。

要約の本文は、太陽光と風力が気候変動の緩和に役立つこと、そして生物多様性や食料システムとのトレードオフを避けるには環境影響評価と適切な政策が必要なことを述べています(いずれも確信度「well established」)。また、対策の中には、注意深く実施しないと他の要素に想定外の悪影響を及ぼす可能性があるものがあり、その例として洋上風力とダムの運用を挙げています。

負の影響72%
正の影響13%
洋上風力の生態系への影響について、158本の文献から抜き出した867件の知見の内訳。出典:Galparsoro et al. (2022) npj Ocean Sustainability 1, Article 1

洋上風力の生態系への影響(研究のまとめ)

2022年に発表された文献レビュー(Galparsoro et al., 2022)は、洋上風力発電所の生態系への影響について158本の文献から867件の知見を抜き出し、そのうち72%が負の影響、13%が正の影響でした。対象となった研究の多く(64%)は、発電所の運転期のものです。

負の影響としては、鳥類の風車への衝突と、鳥が発電所の区域を避けることによる分布の変化が挙げられています。海産哺乳類では、基礎の杭打ちの工事で分布が変わり、ネズミイルカが一時的に工事区域を離れる例が報告されています。一方で、風車の基礎が小型の底生魚の人工魚礁や集魚装置として働きうること、安全上の理由で風車周辺の底引き網が禁止されることで魚類や底生生物への攪乱が減る可能性があること、風車の近くで漁獲が最大7%増える波及効果の報告があることも記されています。

準備区域唐津市沖(2026年1月5日時点)
有望区域法定協議会を設置
促進区域
再エネ海域利用法にもとづく区域の段階。出典:資源エネルギー庁「再エネ海域利用法に基づく区域の一覧」(2026年1月5日時点)

日本の洋上風力の制度

一般海域での洋上風力発電は、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(再エネ海域利用法、平成30年法律第89号。2026年4月1日からの題名は後述)にもとづいて進められています。この法律は2019年4月1日に施行されました。国の整理では、区域は準備区域、有望区域、促進区域の順に進み、地元の関係者による法定協議会は有望区域で設置されます。

この法律を改正する法律(令和7年法律第59号)は2025年6月11日に公布され、2026年4月1日に施行されました。改正により、法律の題名は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に関する法律」に改められました。開発の対象を排他的経済水域(EEZ)に広げ、経済産業大臣が「募集区域」を指定する仕組みが加わりました。また、促進区域や募集区域を指定する際に環境大臣が海洋環境などの調査を行い、事業者が行う環境影響評価法の相当する手続を適用しないことになりました。政府の目標は、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500万kWの案件形成です。

公表日・時点唐津市沖の位置づけ公表元
2022年9月30日一定の準備段階に進んでいる区域国土交通省・経済産業省
2023年10月3日一定の準備段階に進んでいる区域国土交通省・経済産業省
2025年7月30日準備区域経済産業省
2025年10月3日準備区域経済産業省
2026年1月5日時点準備区域資源エネルギー庁
国の公表資料にみる佐賀県唐津市沖の位置づけ。出典は出典台帳を参照

佐賀県唐津市沖の状況

佐賀県唐津市沖は、2022年9月30日と2023年10月3日の国の整理で「一定の準備段階に進んでいる区域」とされ、2025年7月30日と2025年10月3日の整理、2026年1月5日時点の資源エネルギー庁の一覧では「準備区域」です。法定協議会は有望区域で設置されるもので、準備区域の段階では設置の対象ではありません。

このページでは、唐津市沖について国の公表資料に書かれていることだけを記しています。国の新しい整理が公表されたら、このページを更新します。

太陽光発電を規制する特化条例344公布を確認した条例数・2026年4月1日時点
最初の条例2014年1月大分県由布市
都道府県の条例9うち都道府県が定めたもの

陸上の太陽光と自治体の条例

地方自治研究機構によると、太陽光発電設備などの設置を規制する特化条例は、2026年4月1日時点で344条例の公布が確認されています。最初は2014年1月の大分県由布市の条例です。都道府県の条例は9つ(兵庫県、和歌山県、岡山県、山梨県、山形県、宮城県、奈良県、長野県、青森県)です。

同機構は、こうした条例が作られる背景として、土砂流出や濁水の発生、景観への影響、動植物の生息・生育環境の悪化を挙げています。IPBESの図SPM.8で、陸上の太陽光の生物多様性への影響がマイナス(小)と評価されていることとあわせて見ることができます。

1,000kW未満の小水力発電流れ込み式・水路式の事例が多い
中小水力発電大規模構造物ダムのようなものを必要としない
小水力発電の特徴。出典:資源エネルギー庁『中小水力発電の導入促進に向けた手引き』(2024年2月)

ダムの運用と小水力発電

IPBESの図SPM.8では、ダムの運用(W03)は気候変動にマイナス(大)、食料と健康にマイナス(小)、水にプラス(小)、生物多様性には影響なしと評価されています。

資源エネルギー庁の手引きによると、中小水力発電は「ダムのような大規模構造物を必要としない」ものです。水の利用方法によって流れ込み式・調整池式・貯水池式・揚水式に分かれ、1,000kW未満の小水力発電では流れ込み式・水路式の事例が多いとされています。既設の砂防ダムや治山ダムの落差を使う方式もあります。図SPM.8で評価されているのは「ダムの運用」であり、このページではその評価を小水力発電の評価としては扱っていません。

指標現状目標
グリーンインフラ官民連携プラットフォームの会員数2,150者(2025年度)5,000者(2030年度)
グリーンインフラ大賞の累計受賞数76件(2024年度)150件(2030年度)
ブルーカーボン生態系によるCO2の吸収・固定量34万t(2023年度)100万t(2035年度)
グリーンインフラ推進戦略2030の指標の例。出典:国土交通省「グリーンインフラ推進戦略2030」概要(2026年1月23日公表)

グリーンインフラの国の目標

国土交通省は2026年1月23日に「グリーンインフラ推進戦略2030」を公表しました。指標の例として、官民連携プラットフォームの会員数を2,150者(2025年度)から5,000者(2030年度)に、グリーンインフラ大賞の累計受賞数を76件(2024年度)から150件(2030年度)に、ブルーカーボン生態系によるCO2の吸収・固定量を34万t(2023年度)から100万t(2035年度)にすることを掲げています。

当法人のグリーンインフラの取り組みはグリーンインフラのページにまとめています。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. IPBESは洋上風力に反対しているのですか?

IPBESの評価は、政策との関係を示しつつ、特定の政策を指示しない(policy-prescriptiveではない)ことを原則としています(IPBES評価の作成ガイド)。図SPM.8では、洋上風力は気候変動にプラス(小)、生物多様性・水・食料・健康にマイナス(小)と評価されています。本文では、太陽光と風力は気候変動の緩和に役立つこと、生物多様性や食料システムとのトレードオフを避けるには環境影響評価と適切な政策が必要なことが述べられています。

Q2. 唐津市沖の洋上風力は決まったのですか?

資源エネルギー庁の区域の一覧(2026年1月5日時点)では、佐賀県唐津市沖は「準備区域」です。「有望区域」や「促進区域」には整理されていません。

Q3. 小水力発電も、ダムの運用と同じ評価ですか?

図SPM.8で評価されているのは「ダムの運用(W03)」です。資源エネルギー庁の手引きによると、1,000kW未満の小水力発電では流れ込み式・水路式の事例が多く、ダムのような大規模構造物を必要としません。このページでは、図のダムの運用の評価を小水力の評価としては扱っていません。

Q4. IPBESネクサス評価は日本語で読めますか?

政策決定者向け要約の日本語版が、2026年2月に公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)から公開されています。原文は英語で、英語版が優先されます。

出典台帳

このページで使った資料です。取得日はすべて2026年10月11日です。

資料発行日付URL取得日
生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価報告書 政策決定者向け要約(最終版)IPBES2025-06-16(Zenodo公開)https://doi.org/10.5281/zenodo.138502892026-10-11
ネクサス評価のページIPBES2024-12https://www.ipbes.net/nexus-assessment2026-10-11
同 政策決定者向け要約 日本語版IGES2026-02-12https://www.iges.or.jp/jp/pub/ipbes-nexus-jp/ja2026-10-11
IPBES評価の作成ガイド(要約版)IPBES2018https://files.ipbes.net/ipbes-web-prod-public-files/180719_ipbes_assessment_guide_summary_hi-res.pdf2026-10-11
Reviewing the ecological impacts of offshore wind farms(npj Ocean Sustainability 1, Article 1)Galparsoro et al.2022https://doi.org/10.1038/s44183-022-00003-52026-10-11
再エネ海域利用法の施行について(報道発表)国土交通省2019(施行 2019-04-01)https://www.mlit.go.jp/report/press/port06_hh_000163.html2026-10-11
洋上風力の区域の整理(報道発表)国土交通省2022-09-30https://www.mlit.go.jp/report/press/port06_hh_000261.html2026-10-11
洋上風力の区域の整理(報道発表)国土交通省2023-10-03https://www.mlit.go.jp/report/press/port06_hh_000278.html2026-10-11
洋上風力の区域の整理(ニュースリリース)経済産業省2025-07-30https://www.meti.go.jp/press/2025/07/20250730001/20250730001.html2026-10-11
洋上風力の区域の整理(ニュースリリース)経済産業省2025-10-03https://www.meti.go.jp/press/2025/10/20251003001/20251003001.html2026-10-11
再エネ海域利用法に基づく区域の一覧(2026年1月5日時点)資源エネルギー庁2026-01-05https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/saiene_kaiiki_gaiyou.pdf2026-10-11
海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に関する法律(平成30年法律第89号)現行版e-Gov法令検索(デジタル庁)改正 令和7年法律第59号(施行 2026-04-01)https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC00000000892026-10-11
中央環境審議会 資料(再エネ海域利用法の改正)環境省2025-03-13https://www.env.go.jp/council/content/i_01/000298154.pdf2026-10-11
令和8年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(施策 第6章第7節)環境省2026https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r08/html/hj26030607.html2026-10-11
太陽光発電設備等の設置を規制する条例地方自治研究機構2026-04-01時点https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/005_solar.htm2026-10-11
中小水力発電の導入促進に向けた手引き資源エネルギー庁2024-02https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/202402_water_tebiki.pdf2026-10-11
グリーンインフラ推進戦略2030 概要国土交通省2026-01-23https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001968461.pdf2026-10-11
グリーンインフラ推進戦略2030 概要(環境省掲載)環境省2026-01-23https://www.env.go.jp/content/000382394.pdf2026-10-11

このページで扱っていないこと

一次資料で確認できなかった数値は載せていません。

このページについて

作成:小嶋宏明(NPO法人唐津Farm&Food 副理事)/お問い合わせ:info@karatsu-f-f.com(お問い合わせフォーム)/公開:2026年10月12日

関連リンク

▶ Karatsu Data Bank(唐津データバンク)
▶ 玄海の水揚げと海の水温 月次データ
▶ IPBES Nexus Assessment(英語)
▶ IPBES Nexus Assessment, Renewable Energy and Nature (English)